第30回川端康成文学賞受賞
指一本触れないまま、「あなた」を想い続けた12年間。<現代の純愛小説>と絶讃された表題作、「アーリオ オーリオ」他1篇収録。注目の新鋭が贈る傑作短篇集。
表題作ほか2編を収録。
表題作「袋小路の男」は「わたし」の一人称で語られ、「わたし」の存在する空間を静かに書き綴っている。そしてそれは、一人の男性についての静かな想いを表現している。
対して「小田切孝の言い分」では、「袋小路〜」と同じ世界を男女ふたりの視点から描き、「わたし」の感情に引きずられない、客観的な世界を構築している。しかし、客観化したために「わたし」の視点と大きく異なる点はない。淡白で寒々しい描写が切ないが、その点では「袋小路〜」の方が輪をかけて切ない。
3作目「アーリオオーリオ」は独立した作品だが、作品全体に流れる「静かさ」が良い。虚無感ではない、凛とした静謐さが心地よい作品。

個人的には、巷で流行の「純愛」というものがどんなものを指すのかわからないが、表題作は恋愛モノとしては、良作ではないだろうか。
リアリティを伴わず現実から乖離した感じも、いっそブンガク的でも言うべきもので、そのことも作品の味を深めることに一役かっている様に思う。

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